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甘ったるい英語を話すフランス人は、なぜだか着陸するまであれこれ世話を焼いてくれた。
そのあとで聞いた話なのだが、どうやら血のつながらない歳の離れた弟がいるらしく、それがちょうどイギリスに姿格好が似ているらしい。
嘘みたいな本当だとイギリスは笑いながら、そんな彼にちょうど自分も幼い頃、血はつながっていないが面倒を見てくれた年上のフランス人がいるのだと教えた。
すると彼は悪戯っぽく笑い、ロビーの真ん中でハグをしてくれた。そのとき、うなじからほんのり匂った香水はくしくも隣人と同じブランドのものだった。
なんていう偶然だ、と思いながらイギリスはそんなフランス人と空港で別れた。



ふらふらニューヨークを歩いていると、相変わらず街は賑やかで明るいことにいやでも気が付く。
どうやら、アメリカは相変わらず元気にしているらしい。街並みからそんなことが見取られる。

『アメリカに来たので、都合が良い日時を教えてくれたら遊びに行く』

なるだけ無感情な風にメールを打ち、アメリカに送信した。
きっと昼休みの時間までには見るに違いないが、それまでまた暇をもて余すことになるらしい。
当てもなく歩きながら、左右に広がる店らのウインドーと広い道路の景色をイギリスは開放的だと思った。
ふと目に付いたのは、花屋のウインドーだった。飾られたピンク色の薔薇がとてもかわいらしかったのだ。
店に入ると、生花特有のにおいがした。

「いらっしゃいませ!」

とても元気の良い、白人の女の子が水切りしていた手元を一旦止め、こちらににこりと笑う。
店の中はアイボリーで統一されていて、こざっぱりとしている。
客層はまばらで、銀色の髪を丁寧に撫で付けた老女が百合を見ていたり、恋人に送るのだろうかまだ若い男がメッセージカードを書いていたりしていた。
特に何か買うつもりはなかったのだが、イギリスは色鉛筆のように七色に並べられた花に目をとられた。
まず真っ赤な薔薇、橙色のガーベラ、黄色のコスモス、青い朝顔、紺色のアネモネ、紫のラベンダー。
どれも花びらは瑞々しく、それぞれ可憐に見えた。

「なにかお探しですか?」

パッと声をかけたのは、先ほどの白人の女の子だった。
やさしい茶色の髪はふわふわとしていて、誰にでも愛されそうな人懐こい印象を受ける。

「あ、いや……そういう訳ではないんだが」

まさか冷やかしだともいえる訳はなく、イギリスは苦笑い気味に首を横に振る。
店員の女の子はそんなイギリスを不思議そうにしながら、小首をかしげた。
くりくりとした目や髪の色、人懐こそうなところがイタリアに似ているな、と思った。
しかし女の子のちいさな手は職業柄、赤く擦り切れて荒れている。働き者という点についてだけは正反対らしい。

「同性の知人に、花でもと思って」

まさか同性の恋人、と言えるわけもなくそんなささやかな嘘をついた。
むしろ同性のという言葉を省き、ただ恋人というだけを伝えても良かったのかもしれない。
だが、それで余りに可憐すぎる花束をつくられても困るのであくまでも同性、という言葉をイギリスは用いた。

「お誕生日かなにかですか?」
「いいや。特別な記念日とかではなくて、少しの期間を開けて久しぶりに会うものだから」
「それは素敵ですね」

パッと笑う女の子はまるで花のように明るい。
そんな顔を向けられたイギリスの方が返って縮こまり、どぎまぎした。
イギリスに対してひどい恐怖感を抱いているイタリアが、もしそんな感情を忘れて自然体で接してくれたらこんな感じなんだろうかとそんなことを考えた。

「ドライフラワーなんかはいかがですか、ちょっとしたプレゼントに人気ですよ」
「ああ、じゃあそれで。……黄色だとか、暖色系ので頼む」

なぜかアメリカについて思い出したとき、暖かな色合いが思い浮かんだのでそんな注文を付け足す。
女の子は手早くオレンジ色のガーベラや、ちょっとしたアクセントにカスミソウ、そしてメインに一本だけの黄色いヒマワリを花束にした。
まるで真夏からの贈り物のような花束は女の子のようにあどけなく、清かだった。
代金を払い花束を受け取って店を出ると、ニューヨークの晴れた空とドライフラワーのかすかなにおいが気持ちよかった。



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