気が済むまで眠り、起きるともう昼間に近かった。
べたつく精液がきれいに拭き取られている。どうにも彼一人に始末させてしまったらしい。
のそのそベッドから起き上がり、窓際に干されていたフランスのジーンズを拝借し、一枚だけ履いてみた。
悲しいことに腰周りがだぼだぼで、両手がすっぽり入るほどの余裕がある。
けれど昨日着ていた、汗の染みた自分の服をもう一度着るのも気が引けたのでそれで我慢した。
昨日の夜はべろべろになりながら、馬鹿みたいに二人で抱き合って口を吸って、服を着たままセックスした。
もっとも最終的には真っ裸になって絡み合ったのだけど、偶には着たままっていうのも楽しくてつい調子にのってしまった。
はらへった、と呟いて頭を掻きながらイギリスは寝室をあとにした。
シャワーの音がする。どうやら彼は風呂に入っているらしい。
日の差し込むリビングのテーブルには、二人分のラップがかかったオムライスがのっかっている。
イギリスは、どっかりソファーに腰をおろした。
テレビをつけるとニュースがはいっている。知的な眼鏡をかけたアナウンサーは、中々の美人だ。

「あ、起きてた?」

聞き慣れた声がした方を見ると、さっぱりしたという表情のフランシスが立っている。
バスタオルを首からさげ、イギリスと同じように上半身は何も着ていなくて黒のスキニー一枚。
胸や腕の体毛に顔を顰めながら、イギリスはそんなフランスに「上、着ろよ」と文句を言った。
しかしフランスはそんなのお構いなしに、冷蔵庫から取り出した牛乳をコップにそそいで、一気飲みをする。
そのとき見えたフランシスの背中は、細長い傷だらけでイギリスは思わず「あっ」と声をあげた。

「え、なに。どしたの」

驚きながら振り返ったフランシスは怪訝そうな顔でイギリスを見た。
イギリスは慌てて目をそらす。

「や、何でもねえよ」

まさか自分がつけた背中の傷についてあれこれ話題にするのも恥ずかしいので、そう誤魔化す。

「もしかして、これのこと?」

意地悪く笑いながらフランスはもう一度、イギリスの方へ背中を向ける。
否定しなければと思ったが、赤くなってしまった顔ではどうしようもなかった。
おまえはかわいいねえ。そう言い、フランシスの手が伸びてきて、頭をがしがしめちゃくちゃに撫でた。
やめろよ。と口では言ったが、イギリスはその手に甘やかされるのが嫌いではない。

「けどさ、ほら。お互いさまだよ」

何のことを言ってるのかわからず、小首を傾げた。
とんとん、と指先で首筋を叩かれる。ちらりと見ると、赤い鬱血が愛の数だけ散らばっている。
そういうことか、と思うとなぜだかイギリスは口元に笑みが自然と浮かんできた。

「おれら、ひっでえバカだよな」

うん。そうだ、すっげえ朝っぱらからいちゃついちゃってバカップル。
フランスはイギリスに釣られ、笑う。
そんな滑稽な会話をしたあと、二人はテレビを見ながら食卓を囲んだ。
首筋の鬱血と、背中の引っかき傷。
互いにつけあった痕を隠しもせず、ゆるゆるのジーンズと黒のスキニー一枚だけの姿でオムライスを食べた。

「アメリカで宇宙打ち上げ」

ニュース番組のテロップを、フランスはそのまま声に出した。
液晶には白いロケットが映っている。またこんな訳の分からないものにいくらかけたんだか、とイギリスは思った。
最近、アメリカは宇宙云々に関して凝っている。

「良いなあ、俺も宇宙行きたい」

珍しく子どものようなことを言ったフランシスに、イギリスは「アホか」と冷たく返す。
液晶の中のロケットに火がつく。3、2、1、ドーン。轟音と共に、ロケットは何とも派手に空へと飛んでいった。
あれにフランスと乗って、そんで宇宙へ飛んでったら区切りも仕切りもなにものない、無限なところで二人で一生暮らせるんだろうか。
そんなことをイギリスはぽつりと思いながら、とろとろの半熟たまごにスプーンをいれた。