※名前もないキャラ(男)と、イギリスが付き合っていたという設定です。















だからやめといた方が良いって言ったのに。

そう言ったフランスに対し、イギリスは嗚咽をあげていつものように何か言い返そうとするが、うまく言葉にならない。
だってもクソもないだろうが、とフランスは内心思う。だっても何もなく、紛れもない失恋したという事実は変わらない。
机の上には煙草とつまみと酒瓶が散らかっている。そしてイギリスの右手にはコップ。
はあ、と溜め息をつきながらフランスは彼の右手からコップをうばった。
なにするんだ、と叫ばれた口からひどいアルコールのにおいがする。

「これは決してお前を慰めてはくれません。ただ、不幸にするだけです」

なので、没収。フランスはきっぱり、そう言った。
キッチンへと歩き、シンクにコップと酒瓶をひっくり返してやる。
もったいないな、と元来の酒飲み根性が一瞬働いたが、顔を横に振って打ち払う。
そんなフランスの背中を見て、イギリスはまた泣いた。
振り返り、そんな彼を見てフランスは、彼にアルコール依存症の気があっただろうかと考える。
まるでいじめっ子にお気に入りのおもちゃでも奪われた赤ん坊のように、地べたに座り込んでわんわん泣いている。
むしろイギリスがフランスの腰までくらい身長しかなかった頃ですら、こんな風に泣いたことがあっただろうか。
よっぽどだと思いながら、沸かした牛乳に砂糖をほんの少し入れる。ほんのり甘い匂いがした。

「ほら、リビングにもどろう」

こくこくと頷く彼はひどい顔をしていた。あらあら、とお節介なおばさんのように呟きながら涙をぬぐってやる。
リビングに戻ると、端におかれた観葉植物がいつもよりしおれているように見えた。
彼の少女趣味の象徴とも言える植物にすら、手がまわらないほどのダメージらしい。

「たくさん、好きだって言ってくれたんだ。そしてどうしようもないくらい、愛し合った。不倫だったけど幸せだったんだ」

ホットミルクのはいったマグカップを両手に持っているイギリスはぽつり、ぽつり口を開いて言葉を落とす。
フランスはその話を聞きながら、自分も昔に経験したとある少女との恋について思い出した。
もうすっかり遠い遠い昔の話だし、イギリスのように懐古趣味はないのでずるずる引きずっているわけではないのだが。

「うん。それで?」

続きを求めると、イギリスは一口マグカップに口をつけ、また話し出す。

「だけど、だけど。やっぱり、子どもが欲しいって。俺との間には、愛情はあるのに生産性がないって」

また、涙がぶり返してきたらしい。
乱暴に目をこすろうとした手をフランスはとりあげた。これ以上、彼の瞼に傷つけたくなかった。

「先週、本妻との間に子どもができたんだって」

そりゃまあ、お約束の昼ドラ的な展開だ。
フランスは内心、そんなことを思いながら涙に舌をのばす。やはり、しょっぱかった。

「……なあ、なんで俺に子宮がないんだろう。なんで俺、国なんて存在で生まれてきたんだろう。望んでなんかいなかったのに、なんで」
「なんで、なんでってそんな小さな子じゃないんだから」

ぐすっと鼻をすする音。涙はもう引いたらしい。手を離してやった。
フランスは自分の金色の髪をまとめあげる。
右手で束ねた髪をおさえ、反対側の左手でポケットをまさぐると黒いヘアゴムが入っていた。
耳の後ろで結うと、普段髪がふれている首筋や顔の輪郭に少し空気が触れ、すっきりした。

「さ、もう泣くのはやめだ。少し早めに、夕飯の支度をしよう」

フランスが立ち上がると、のろのろイギリスも同じようにソファーから重い腰を上げた。
なににしようか、とフランシスは冷蔵庫を開いて考える。
料理下手の彼にも参加できるような簡単なもので、尚且つ暖かいもの。
そう時間もかからずピンとフランスはひらめき、イギリスに耳打ちをした。
すると、イギリスはメニューを聞いて少しだけ、表情が晴れる。意外と厳禁だ。
また新しい朝がくればやがて何もかも忘れてしまう、フランスは思いながらピーラーとじゃがいもをイギリスに預ける。 俺にしておけばこんなに幸せを与えて上げられるのに。確かな自負でもあったが、内心思う。
しかし喉の奥でひっかかって、声にはならなかった。