べ、と出された舌にアメリカは「あーあ」と声をあげた。
日本のところの金平糖みたいな、白い粒がそこにはぽつりとできあがっている。

「口内炎だね、完璧」

アメリカが言うと、イギリスは不機嫌そうな顔をした。
そして落ち着かない様子で、しきりに口の中を動かしている。
まるで入れ歯をはめてる老人のようで、アメリカには滑稽に見えた。

「栄養が足りないんじゃないかい、君は」

指摘すると、彼はまた更に不機嫌そうに眉を顰める。

「お前だけには、栄養云々に関して言われたくない」

まあ、その通りかもしれない。アメリカも内心、思った。しかし声には出さない。
数歩歩き、冷蔵庫を空ける。重い機械音が鳴った。
相変わらず、イギリスの家の冷蔵庫は何もない。
隣国のフランスのには、溢れんばかりの食材が入っているというのに。
日本製の性能の良い冷蔵庫が、新品のようだった。

「ねえ、買い物に行こうよ!」

突然の申し出に、イギリスは「はあ?」と声をあげた。
しかし、反対意見なんかアメリカは聞かない。すぐにジャケットを羽織り、イギリスも支度をするよう促す。
すると彼も冷蔵庫についての危機感を多少持っていたのか、意外と素直にコートを着た。
外へ出ると、まず冷たい風が頬がを撫で、アメリカはマフラーの中に深く顔を沈めた。
ちらりと隣のイギリスを見ると、薄っぺらい体はアメリカよりも幾分、薄着だ。
防寒具としては、茶色い皮の手袋のみ。それも防寒目的、というよりは見た目重視の品物のように見えた。
寒そうだな。と思い、自分のイヤーマフを外して彼の耳にあてる。
嫌そうにする彼を見ながら、案外童顔にモコモコしたイヤーマフが似合うことにアメリカは気づいて可笑しかった。
ついでにもうちょっと寄り添って歩くと、小さく「あったかい」とイギリスから呟きが聞こえた。
小さな兄弟が冬の装いで雪遊びをしている。雪玉を投げあい、鼻水をたらす子ども。
横目でちらりと見て、アメリカはそういえばカナダとも幼い頃、あんな風に遊んだなあと思い返す。
雪合戦をしよう、と言ったアメリカに、彼は小さな声で雪だるまがつくりたいと言う。
アメリカと違い、カナダはそんな静かな遊びを好んでいた。
もちろん最後には流され、アメリカの意見通り、雪合戦をしたのだが。
しかし、少しばかりどんくさい彼には結局、雪合戦の相手は務まらずに終わった。
代わりにイギリスに雪合戦を申し込むと、彼も彼で幼いアメリカに雪玉を投げることができなかったのだ。
だから、どうにもアメリカは小さい頃、ろくに雪合戦というものをした記憶がない。
そんなこともあったなあ、と思いながら歩くと、やがて大型のスーパーマーケットにたどり着いた。
雪を軽く払い、自動ドアの中に入る。

「アイス買おうよ!アイス」
「お前、自分の腹見てから言えよ」

アイスコーナーへカートを押そうとするアメリカを、イギリスが止める。
代わり店内を一周するように周り、シリアルやら日持ちしそうな食材をカートに入れていった。

「ねえ、アイス……」

駄目押しのようにもう一度アメリカは小さく言う。
まるで駄々っ子だ、と思いながらイギリスは一度溜め息をつく。
それがOKのサインだと知っているアメリカはカートの中にチョコにコーティングされた写真のパッケージをしたアイスを入れた。
レジを通し、買い物袋につめる。
入れる順序について、アメリカはイギリスに小言を二つ、三つ言われたが余り気にしていない。
店を出ると、すっかり太陽が沈みかけている。
夕日によってできた買い物袋を二人で提げる、長い二つの影を見て、アメリカは些か滑稽のように思った。
しかし同時に心のどこかで感じた幸福感について、はあと白い息を吐く。