何故だろう、と思いながらもイタリアが懐いてきだして結構な月日が経つ。
ハグやキスは当たり前、度の過ぎた愛の言葉は頻々と。

「ね、一緒に帰ろうよ!」

各国が集まる会議の後、イタリアはそう手をとった。
あたたかい、子ども体温の手にイギリスは懐かしさを覚えながら、一瞬だけぼうっとする。
しかし、すぐにいけないと思って、そんな遠い昔の一瞬の思い出を打ち払う。

「どこか、カフェにでも入りたいなあ」

言いながら、イタリアはあたりをキョロキョロする。
確かにこのまま用意されたホテルに直行するには、些か味気ないとイギリスも思った。
日差しのあたたかい、天気の良い日だった。ぼんやりしていると、そのまま眠ってしまいそうな。

「ねえ、あそこにでも入ろうよ」

そう言い、イタリアが指差したのはレンガ造りの小さな店だった。
一見すると可愛らしく、女性が友人と気軽にお茶でもするようなイメージの外観だ。
まず一人では入らないだろうな、とイギリスは思った。
だけど、何故だかイタリアと二人だったらなんの違和感もなくは入れそうで、素直に頷く。
店に入ると、ふわりと甘い匂いがする。
栗色の巻き髪をした女の子に案内された席は、よく外の見える窓際だ。
やはり店内は女の子同士の客が多く、大の男二人なんていうのは見当たらなかった。

「紅茶を、一つ」
「ヴェー。クリームソーダと、あんまり甘くないケーキを二つおねがい」

かしこまりました、と微笑しながら栗毛の女の子はメニューを片付けた。
かわいいな、とイギリスは思った。柔らかそうで、人好きする雰囲気がイタリアに似ているような気もする。
しかしケーキを二つ?考えながら、先に出された紅茶を口に含んで小首を傾げた。
確かにイタリアは甘いものを、さほど嫌っているわけではないと思っていた。
けれど二つもクリームソーダとともにたいらげるということは、嫌いというよりは寧ろ好きなのかもしれないと考える。

「おまたせしました、塩ケーキになります。お好みでチョコをかけてくださいませ」

かわいらしい、花柄の皿の上に小さなケーキ。と、チョコペンが二本。

「わー、おいしそうだね!」

子どものようにはしゃぐイタリアに、イギリスは少し恥ずかしかった。
何しろ、店内にいる客がちらちらこっちを見てくる。

「おい、もう少し静かにしろよ」

小声で嗜めると、イタリアは一瞬しゅんと静かになったが、けれどすぐにまたいつもの調子で笑顔をつくろい、「イエッサー、mam」と軽口を叩く。
溜め息がでかけるが、フランスにも常々注意されているそんな悪癖は少なからずこのカフェには似合わないので引っ込めた。
イタリアは鼻歌まじりにチョコペンで何やら描きはじめる。
その鼻歌に、イギリスは聴き覚えがあった。
ドイツがホスト国の会議の際、オーストリアが昼食のBGMにと弾いていた古い民謡だ。
綺麗な響きだな、と思いながらイタリアのパレットを見つめる。
描き始めてからそう時間をかけずとも、何を描いているかイギリスは気づいた。

「薔薇か。うまいな……」

思わず漏らすと、イタリアは照れ笑いをする。
何だかまた小さな弟でもできたようだと思い、思わず柔らかい茶髪を撫でた。

「あのね、これアーサーに!」

そう言い、細部まできちんと綺麗に描かれた薔薇を描いたケーキの皿をすすめる。
甘いものはさほど好きではないから、と普段なら断るところだったが、どうにも今日はそんな気分になれなかった。
サンクス、と小さく礼を言う。フォークを手に取ったが、どうにも薔薇を崩すにはもったいない。
しばらく手がつけられずにいると、イタリアは今度、自分の皿の上にまた描き始める。
サッと描きあげられたのはハート形だった。
食べないの?と、不安そうにしたイタリアに、イギリスは慌てて首を振る。

「いや。もったいない、と思って……」

至って真面目に言ったイギリスに、イタリアは可笑しそうに笑った。
その笑い顔にどういう意味か、と尋ねたが何も言おうとはしない。ただ、見ているほうまで幸福になりそうな、あの笑みを浮かべたままだ。
半ば、何だか悔しい気持ちになりながらイギリスは携帯を取り出し、写真を撮る。
もったいない、とまた心の中で思いつつ、なるべく薔薇を避けながらケーキを一口、口の中へ放り込んだ。