唇が重なり、イギリスは瞬間的な発熱を体の中に感じた。
身を委ねるように力を抜くと、無遠慮に大きな手が腰元にそえられる。
半ば溺れかけ、必死な息継ぎのように唇を離して酸素を取り込む。
すると、妙に入り込む酸素と共に口元がスースーした。
「メンソーレ、たばこ」
単語を二つ並べる。
アメリカは口を尖らせる。そして決まりの悪い表情をつくった。
悪戯がばれた子どものそれに、丁度似ていた。
「たばこは止めろって前にあれだけ言っただろ」
「君の干渉はもう勘弁だよ」
ラフなジーンズのポケットからは煙草のケースが覗いている。
まるでそこらのティーンのようなジーンズには似合わない、昔からある古い銘柄のものだ。
イギリスにはその銘柄に見覚えがある。何しろ、遠い昔に自分が吸っていたものだったのだ。
「君の干渉はもう勘弁だよ」
そう言い、更に口を尖らせる。
そんな目の前の年下の男を、愛しいな。と、内心イギリスは思った。
自分よりもずっと高い位置にある頭に手をやる。髪質の金髪がサラサラしていた。
もう一度、上を向いてほんの少し爪先立ち、キスしてやる。
再度、自分に帯びていく熱を感じる。今度は瞬間的なんかではなく、もっと確かなもののように思えた。
口の中がメンソーレでスースーする。別に、そんな感覚が嫌いではない。
寧ろキスによって共有できる、そんな味があることの幸福感に対して、好きと言って良いくらいだ。
ただ、まだまだアメリカには不似合いだ、と感じたのだ。
煙草なんかより、ずっとアイスを口にくわえてたほうが良いと思う。
しかし、彼はどうにも納得がいかないらしく眉を顰めて膨れっ面をやめようとはしない。
「もっと、もっと君に近づきたい。今は遠すぎるんだ」
昔イギリスも口にしていた銘柄をポケットから出し、アメリカはぽつりとそう言った。
どうやら年下の男には、年下の男なりの苦というものがあるらしい。
かわいいな、とイギリスは思った。
自分より一回りも、二回りも大きな体を抱きしめる。
煙草のにおいが微かにした。けれど吸い始めて日が朝良いので、まだ染み付いているというわけでもない。
寧ろ、コーヒーや甘いチョコだとかのにおいの方がずっと強く、顔を埋めるとすっかり彼の国にいるような気分だった。
「アメリカ、アメリカ」
小さい、か細い声。彼の耳には届いただろうか、イギリスは思った。
数秒たっても返事がない。どうやら聞こえていない。
「愛してる、すごく、すごく」
先ほど名前を呼んだときの声と、ほぼ同じ、もしくは努めてもっと小さい声で言った。
外では、あたりが静かになり始め、夜がやってくる頃だった。
けれど夜がやってくる寂しさなんかどこにもなく、ただあるのは二人ぼっちでいる幸福感だけだった。