ベルの音がして玄関に出向いてドアを開けてみると、真っ先に目に飛び込んできたのは雪のような白だった。

「……これは何のつもりで?」

その白はオーストリアにとって見慣れたものだ。

「素敵だろう、エーデルワイス」

胸に差し出された花を受け取る。そっと顔を埋めてみると、生花特有のにおいがする。造花などではない。
星の形の花びら懐かしくて、指を這わせてみた。
普通高山に咲いていこの花で、これだけ大きな花束をつくるには結構な金額になるだろう。
オーストリアはそんなことを思った。

「ありがとうございます」

俯き加減で笑ってみせたオーストリアに一瞬鼻白んだが、フランスも微笑み返してやる。
両手に真白いエーデルワイスを抱きかかえながら、二人は家に奥に入った。
相変わらずどこもかしこも綺麗に整えられ、適度に装飾され、フランスは関心した。
多分、それもこの家の家主の筋肉野郎やブラコン野郎ではなく、目の前の音楽家によるものなのだろう。
甲斐甲斐しい限りだな、と思いながらソファーに腰を下ろす。
それからどこか嬉しそうな表情で花瓶を選び、花を活ける一連の作業を眺めていた。
ゆっくり、実に堅実に。どれ一つとして間違うこともなく手を抜くこともなく、彼は執り行なうのだ。
職人気質だよなあ、とフランスは今更のように思う。
そしてできあがったものはまるで芸術品のようで、テーブルの真ん中に飾られた。
華やかで、大きさのこともあってかかなり目立つ。

「良いのかねえ、不倫相手からもらった花束をこんな目立つところに」

意地の悪い笑みを浮かべながら、フランスはオーストリアの腰をしっかり掴んだ。
しなやかな、華奢なつくりをした柳腰だ。

「いけませんか?」

見上げられた紫色の瞳もまた同じように、意地の悪い笑み。
腰を掴んで離さないフランスの手に、オーストリアの指が重なる。すると冷たい感触がした。

「……ゆびわ」

一言だけ、言う。
オーストリアは一瞬だけ自分の手元に目をやって、けれどすぐにまた上目遣いになった。

「もらったんです、彼に」
「婚約指輪か。妬いちゃうね」

それが冗談で言ったのか、それとも本気で言ったのか自分自身でもよくわからかった。
ただイニシャルまで丁寧に刻印されたシルバーの輝きが、どうしようも憎らしくて堪らないのは事実だ。

「ただ、二人でいるときは外してほしいな」

抜き取ってしまおうと引っ張ったが、簡単には抜けない。どうやらジャストサイズでつくられたらしい。

「痛い、のですが」

指をとても大事にする彼は必要以上に顔を顰めてみせ、自ら指輪を抜き取った。
軽くひねって、するり。抜け落ちた指輪は床に転がり、カッカラ、カラ、と転がっていった。けれど、その後の行方は知らない。